コラム 2 「あれは一体何だったんだろう、という体験」代表 兼定裕嗣

何年か前のことですが、テレビで宮崎駿監督のインタビューを見ました。宮崎氏がこのようなことを言ったのを今でも覚えています。

「よく私の映画を何度も見たと言ってくれる人がいるんです。『私も娘も先生の映画の大ファンなんです。“となりのトトロ”なんて、もう100回近く見たんですよ。』なんてね。それはそれでありがたいんですけど、私の映画なんて、1ぺんや2へん見てくれるだけでいいんです。見た後、『あれは一体何だったのかなー』って思い出してくれればそれでいいんです。そういうのが大事なんですよ。」

宮崎氏の知識の広さや思索の深さはものすごいですから、映画に込められているメッセージは並の私たちには計り知れないものかもしれません。ですので、この発言の真意は何だったのかなー、と今でも思い出すことがあります。

さて、最近久し振りのワークショップを行いました。2日間にわたって岐阜県山県市内の7つの保育園児130名が対象でした。無心になって取り組む姿や、「楽しかった!」と見せてくれた笑顔に、私の心も洗われる感じがし、さわやかな余韻に浸っています。


 ワークショップ後に保育園関係者に書いていただいたアンケートでは、「一人一人が木づちとクサビを持ち、無心になって取り組んだ結果大きなジャングルジムが出来上がり、みんなで造り上げたという大きな感動を味わうことができた」、「子供も大人も夢中になれる、そして楽しみながら自然の良さ、木の温もり、日本の伝統建築のすばらしさをたくさん感じられる体験でした」、などの感想を寄せていただきました。特に普段とは違う子どもたちの活発な姿や熱中する姿に目を見張っておられた様子でした。

大人というものは、ともすれば子どもたちを自分の思わくに誘導しがちです。私たちのワークショップには子どもたちや人々に伝えたいメッセージがたくさん込められています。そこの思いを感じてほしいとの思いは確かにあります。しかし、子どもたちにはそれぞれのとらえ方、感じ方があります。私は、今回のくむんだーの体験が子どもたちにとって、「あれは一体何だったのかなー」ぐらいのとらえ方でいいんだ、と思っています。

今回の体験をずっとよく覚えている子どももいるでしょうし、あまりそうでない子どももいるかもしれません。でも彼らのこれからの長い人生の中で、今回の木に触れてくむんだーを組み上げた体験が、ふっと思い出される瞬間はきっとやって来るものなのです。それは10年先のことになるのか、50年先なのかは分かりません。

しかし、少しでも心の片隅に今回の思い出をとどめておいてもらえれば、それでいいのです。その先の解釈は一人一人が時間をかけて行っていってくれるものです。

 

この、くむんだーの活動は種まきのようなものだ、と思っています。個々の子どもたちが、これから出会うであろう、土や光、風や雨といった様々な人生経験の中で、いつかきっと花を咲かせ実を成らせてくれると信じて、地道に活動を続けて行こうと思っています。「あれはそういうことだったんだなー」と思ってくれる日を待っています。


(文責:兼定裕嗣)